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うり×ポリ日記(仮)

うりくらげの新しいブログ

番外編小説「聖剣士失格」

今回の小説はとんでもなく長いんで、余裕のある時に読んだ方が良いかも。

とりあえず、とび森では相変わらず新住人が越してきます。

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まあ詳しくは明日以降に。

 

 

 

 

 

 

 

コメ返

>アクリロ

あ、そうだったん?すまん…

カンパネラ「安心しろ。我が世界は全てのポリゴン系の安寧のために作られたのだ。一流のセラピストもいるから心配など無用だ」

 

 

 

 


創造歴1043年――


辺りには黒い煙が立ち込め、赤い炎が所々で燃え盛っている。時折聞こえる轟音。そんな中を幾人かのポケモン達が走り抜けていた。
「急げ!ここを抜ければもうすぐだ!」
赤いたてがみをなびかせ、額の角を高々と掲げ他の者達を先導するポケモン。彼こそ聖剣士の1人、ケルディオのケイロンだ。
戦場を横断する彼らの元へ、突如砲弾が飛んできた。
「!!」
ケイロンはそれに気づくや否や、自ら砲弾の方へ向かっていった。

ドオオォン!!!

「!? ケイロンさん!!!」
物凄い爆音と共に分厚い煙が周囲を覆う。あまりのすごさにポケモン達はケイロンの安否を心配した。
「大丈夫、無事だ!」
そこへ煙の中から無傷のケイロンが戻ってきた。それを見てポケモン達は安堵する。
「だが向こうに目を付けられた。君達は先に逃げろ。僕がここを食い止める」
その言葉にポケモン達は困惑した。
「駄目です!!ケイロンさんがいなかったら、私達はどうやって敵から身を守ればいいんですか!!?」
「少し北へ行ったところに古い隠し穴がある。そこを奥へ進めば国境近くのと繋がっているから、そこまで行けば安全だろう。あそこは人間じゃ入れないような場所だから、まだ見つかってないはずだ」
「はずって…、そこで人間が待ち構えていない保証なんてどこにあるんですか!!?」
「誰かが囮になるしか無いんだ!!…大丈夫、僕を信じろ!」
近くで炸裂音。一刻の猶予も無いのを悟ったポケモン達は、まだ躊躇しながらも進みだした。
「…絶対、死なないでくださいよ!」
そうして小さくなっていく彼らの後ろ姿を見送ったケイロンは、先程砲弾の飛んできた方向へ踏み出した。
(どこだ…どこにいる!?)
辺りを警戒し、慎重に歩く。するとまた違う方向で銃を持った人影が見えた。
「!! そこかっ!!!」
ケイロンは人影の方へ“ハイドロポンプ”を放つ…が、それは倍の威力で跳ね返ってきた。
「なっ…ぐあぁぁっ!!!」
「ふん、かかったな」
大ダメージを負ったケイロンの周囲の物影から数人の人間が現れた。
(今のは“ミラーコート”…。だが何故…!?)
「こいつを用意していて正解だったな。聖剣士ともなれば我々の強力な戦力となることは間違い無いだろう」
そう言う人間の手には1本のロープが握られ、その先にはグレイシアが繋がれていた。しかしケイロンのハイドロポンプをまともに食らい、虫の息だった。
(っ!!僕としたことが…)
「さて、では捕獲作業に…」
「そうはさせん」
「何っ!!?」
突然聞こえた声に人間達は辺りを見回す。直後、一筋の青い閃光が周囲の人間を残らず斬り払った。
「ぎゃああぁぁっ!!!」
人間を倒し、ケイロンの側へ駆け寄ったのは…
「レイオン…!?」
コバルオン――レイオンはケイロンを見下ろすと持って来た木の実を差し出した。
「何をやっている。人間からポケモンを守るのが今の我々の役目だろう」
「う…す、すみません…」
ケイロンが木の実を食べている間に、レイオンは人間の盾にされたグレイシアにも“復活の種”を与えた。
「立てるか」
グレイシアは弱々しくうなずくと、レイオンに促されその背に上った。
「では次に“果ての岩壁”まで行こう。その後で…」
レイオンは言いかけ、はっとして飛び退いた。その一瞬後にレイオンのいた地面は爆発を起こした。
「…まだ敵は片付いていないようだな」
そう呟くレイオン達の周りに、先ほどよりも大勢の人間が武器を構えて集まってきた。
「レイオン!!ケイロン!!」
そんな中、いつの間にか現れたテラキオンが人間を豪快になぎ倒し駆けつけた。
「大丈夫か!?…くっ、思ったより酷いことになってるな…」
「来たかガレオン」
「すまない、もっと早く合流出来れば良かったんだが…」
「無理はするな。我々が人間の手に落ちれば、それこそ終わりだ」
荒く息をするテラキオン――ガレオンと、冷静な様子を保つレイオン。2人のやりとりが終わると、ケイロンは小さく呟いた。
「…ビリジオンは…」
その一言で場の空気が固まった。ガレオンが返事に迷っている間にレイオンが答えた。
「何を言っている。奴は来ない。お前が一番わかっているだろう」
レイオンの言葉が鋭く突き刺さる。そうだ、ビリジオンは来ない。わかりきったことのはずだった。
(わかっているからこそ…か)
レイオンは真っ直ぐな視線をケイロンに投げかける。ケイロンはうつむき、震えていた。
「そうだね…。…では行こう…世界を守るために」
ケイロンが声を絞り出すように言う。次の瞬間、“覚悟の姿”へと変貌したケイロンは、レイオン、ガレオンと共に人間に立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 



時は遡り創造歴419年――

 

 


「はあっ!!」

ガキイィン!!!

とある森の中、2つの剣が激しくぶつかり火花を散らす。
「くう…」
「甘い!」
直後、ケルディオの剣は跳ね返され、反動で吹っ飛ばされた。
「うわあ!!?」
数秒宙を舞った後木に叩きつけられ、地に落ちるケルディオ。ふらついた足で立ち上がろうとする彼の前に相手をしていたビリジオンが歩み寄った。
「今日はここまでにしましょう。大分疲れが見えているわ」
「大丈夫さ、これくらい…ううっ」
「ほら、無理をしない!こういう訓練は毎日少しずつ継続するのが大切なのよ」
「だから毎日こうしてやってるじゃないか…」
「おう、またやってんのか」
そこにテラキオンコバルオンが現れた。
「随分と熱心だな、ケルディオ
「だって…」
ケルディオが後ろを振り向き、遠くを見るような目をする。
「今も人間達によって苦しめられているポケモン達が沢山いる。400年前あれだけのことがあったのに、人間達はちっとも変わっちゃいない。やっぱり自分自身が痛い目見ないと、人間達は何も学ばないんだ…」
「…要は早く強くなり、人間を懲らしめたいと」
コバルオンの言葉にケルディオはうなずく。
「確かに、人間達の中には自らの過ちを認めず、何も学ぼうとしない者も多い。お前も被害者の1人だから身を持って知っているだろう。だが、私達がお前に教えているのは復讐の手段などではない。それに真にポケモン達を愛し、助け合おうとする人間もいる。人間が本当に滅ぶべき種族だったのなら、それこそ400年前にアルセウスが滅ぼしていただろう。我々は同じ、この世に生きる生命だ。仮に何人が道を外れたならば本来あるべき方向に導き、正す…それがいずれ互いにわかりあい、発展することにつながるだろう。単純にポケモンを助けることだけが我々の使命ではないのだ」
「…つまり人間を倒そうという考えは間違いだって?」
「そういうことになるな」
「何でだよ!!だって人間は…」
ケルディオ
不意にビリジオンケルディオを呼んだ。
「来なさい。見せたいものがあるわ」

 


「何だよ、見せたいものって…」
「もうすぐよ」
小高い丘を登り続ける2人。すると頂上近くの様子が見え始めた。
「あ…」
一気に駆け登るケルディオ。丘の頂上に着くと色とりどりの花が咲き乱れ、辺りの雄大な自然を見渡すことができた。
「うわあ…!」
「どう?ここの景色は」
目を輝かせ駆け出すケルディオに、後から来たビリジオンが問いかける。
「すごいよ!!すっごく…綺麗だ……!」
「…そう聞けて良かったわ。実はね、ここ、人間達が全ての花を植えたのよ」
「えっ!!?」
驚いてケルディオは辺りを見回す。
「これを、人間達が…!?」
「ええ。かつてこの場所にはアルセウスを祀る神殿があった。けれど知っての通り400年前の事件で神殿はおろか、丘や周辺の自然まで破壊され、荒れ果ててしまった…。それに責任を感じた人間達がこの丘を復興の象徴とし、未来永劫平和が続くように木々や草花を植えた。以来ここは“フラワーズヒル”と呼ばれ、人々の心の拠り所となっている」
「…つまり?」
「人間だって何も学ばないわけじゃないし、自らの過ちと向き合い、2度と同じことが起きないよう未来へ警告を残したりもする。善と悪両方を持つ生物…それが人間よ。人間だからと言って悪者扱いするのは良くないわ」
「……」
辺りを柔らかい風が包む。ケルディオビリジオンの言葉に何も言い返せず、ただ目の前の光景に目を奪われていた。
「…そろそろ帰りましょうか」
ビリジオンはそんなケルディオに優しく寄り添い、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 


それから幾年も後――

 

 


「“聖なる剣”!!!」
光をまとったケルディオの角がコバルオンに直撃した。
「ぐぁっ…!!!」
重い一撃にコバルオンは堪らず膝をつく。
「う…がはっ……」
咳き込みながらもコバルオンは立とうとするが、そのまま崩れ落ちてしまった。
「…はあ…はあ……参った、私の負けだ……」
「え…?」
「おめでとう、ケルディオ…。これで、お前は聖剣士となるための…二つ目の壁を、越えたわけだ…」
「あ…」
それを聞いたケルディオの顔が一気に明るくなる。
「や、やった…やったぞ!!」
ケルディオ、喜ぶのはまだ早いぞ。あと1人残ってる」
「あ、そうだ…」
テラキオンの言葉にケルディオが振り向く。そこにいたのは、いつもの優しげな笑みの裏にただならぬ気配を感じさせるビリジオン
「私とのバトルは明日以降受け付けましょう。今日は疲れてるでしょうから、ゆっくり休みなさい」

 

 


その夜――

 

 

 

「ふう、しっかしお前があそこまでやられるとはな」
「……」
森の中で見回りをしながら陽気に話すテラキオンと、静かに耳を傾けるコバルオンケルディオビリジオンは別の場所の見回りをしていた。
「やっぱり相性という点で俺達はケルディオに対して不利だったんだ。俺なんか奴のハイドロポンプで一発KOされちまったしな。ははっ」
テラキオンはそう笑い飛ばした後ため息をついた。
「はあ…そういう意味ではケルディオビリジオンに勝つのは大変そうだな。あいつは俺達より素早いし…」
「…相性だけで勝敗が決まるわけではない。が、確かにビリジオンも強い。最後の試練はケルディオにとって…」
そこでコバルオンが何かに反応する。辺りには嫌な臭いが漂っていた。
「…テラキオン
「ああ」
言葉を交わすまでもなく、2匹は一斉に同じ方向へ走り出した。

 

 

 

 


ビリジオン!!」
「! コバルオンテラキオン!!」
先に駆け付けたビリジオンケルディオに、コバルオンテラキオンが合流した。
「これは…」
「ええ。多分この前と同じ…」
彼らの目の前では紅い大きな炎が激しく躍り狂い、森を飲み込もうとしていた。
「んなのんびり話してる場合か!!さっさと森のポケモン達を助けねえと!!」
「そうだね、行こう!」
テラキオンの声を合図に、4匹は燃え盛る森の中に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

数時間後――

「ふう…ケルディオのおかげで火が消化できたから、案外早く片付いたな」
4匹は辺りを見回しながら、焼け焦げた森の中を慎重な足取りで歩いていた。
「しかし今月で4回目か…。人為的なものとしか考えられないな」
「人間達の間では『放火犯は必ず現場に戻る』と言われているそう。真偽はわからないけど、とにかく早く犯人を見つける必要がありそうね」
「そうだな。ここは二手にわかれて火事の原因を探ろう。私とテラキオンは向こうを見に行くから、ビリジオンケルディオは反対側を頼む」
「うん!」
「ええ」
コバルオンの指示に従い、2匹は森の東側へ走っていった。

 

 

 

 


十数分後。炎も消え、完全に暗闇に閉ざされた森の中をビリジオンケルディオは歩いていた。
「なんか、不気味だね」
「ええ。何か起こりそうだわ…」
しばらくの沈黙。彼らの足音以外に聞こえるものは無い。
「こんな状況見てたらさ…昔のこと思い出しちゃったよ」
「…私達が初めてケルディオと会った時?」
ケルディオは無言でうなずいた。
「そうね。あの時…あなたを見つけた時は、周りは火の海だった。家族を失い、行く宛の無かったあなたを私達は仲間として受け入れ、育てた…」
ビリジオンの言葉にケルディオが答えるように言う。
「僕、最初は人間が許せなかった。けどビリジオン達に出会って…ただひたすら正義のために尽くす3匹を見て、僕もあんな風になりたいと思った。怒りや憎しみに任せて戦うんじゃ駄目だって3匹が言うのが最初は納得できなかったけど、今はその意味が理解できる。そんなことしても誰も幸せにはなれない。自分が辛いだけだって、わかったからね」
ケルディオビリジオンに笑いかける。
「3匹のおかげで辛い一生を送らずに済んだし、やりたいことも見つけた…。だから僕、聖剣士の皆と会えて、本当に良かった」
「……!」
ビリジオンはしばらくケルディオの顔を見つめ、そして微笑みを浮かべた。
「私もよ。あなたに会えて――」
そう言いかけたが、次の瞬間ビリジオンは顔色を変え前方をにらみつけた。
「? ビリジオン?」
「誰かいる」
しばらく進むと、闇の中でかすかに炎が揺らめいているのが見えた。
「これは…!!」
ビリジオンが駆け寄った先には傷だらけのリザードンが倒れていた。先程見えたのはリザードンの尻尾の炎だったようで、今にも消えそうなほどか細いものだった。
ケルディオコバルオン達を呼んで来てちょうだい!」
「うん!!」
ケルディオは身をひるがえし来た道を駆け戻っていった。その後でビリジオンは持っていた木の実をリザードンの口元に差し出す。
「あなた、大丈夫?何があったのか色々聞きたいところだけど、まずはこれを食べ――」
そう言いかけたところで、ビリジオンは何かを感じ取った。と、次の瞬間リザードンの目が見開かれ、口から業火が吐き出された。
「!!!」
紙一重で炎をかわしたビリジオンは戦闘体勢に入った。
「やはり、あなたがこの森を…」
「グルルゥ……グッ…!」
次を警戒するビリジオンだったが、急にリザードンは身悶えし、倒れた。
「!?」
すると、リザードンの体から黒い霧のようなものが沸き上がり、蒼白い霊体を模した、あるポケモンに似た姿になった。その異様な光景は暗闇の中でもよく見えた。
《もう使えんか…。全く肉体というのは不便なものだ…》
その得体の知れないものから声が発せられる。その状況からビリジオンは事態を理解した。
「…黒幕はあなたね。一体何者?」
《ほう…我を見ても物怖じせんとは。それでこそ聖剣士、か》
「答えなさい!!あなたは何者!?何故こんなことを…!」
声を荒げるビリジオンにそれは答える。
《我は怨霊…。この世界を暗黒に染めるのが我が望み》
「世界を…!?」
《そうだ。そのためにまず、汝が肉体を貰うぞ》
「っ!!?」
とたんに深い闇がビリジオンを覆ったかと思うと、怨霊共々その身に吸い込まれるようにして消えた。
「ぐっ…!?あ……」
もがき苦しむビリジオン。立っているのもやっとの状態だった。
「う…っ、この……はあっ!!!」
しばらくの格闘の後、闇がビリジオンの体から吐き出されるように出てきた。余程激しい戦いだったのか、ビリジオンは息が荒く、体中を滝のような汗が流れていた。
《ふむ…中々に強靭な精神力。寸分の迷いも乱れも無い…》
怨霊の方も消耗したのか、やや規模が小さくなっている。
《そう易々とは乗っ取れそうに無い。流石聖剣士の名は伊達ではないか…》
怨霊はしばらくその場で考え事をするように渦巻いていたが、やがて呟いた。
《そうだな。あの小僧…確かケルディオと言ったか》
それを聞いたビリジオンの顔色が変わる。
《奴の心、微かに闇が見えた。奴なら乗っ取れるかもしれん…》
「待て!!ケルディオには手を出すな!!!」
《もう汝に構っている暇は無くなった》
怨霊が闇に消えようとする…とそこにビリジオンが追い打ちをかけた。
「逃がすか!!」
が、それも虚しくビリジオンの“聖なる剣”は何の手応えも無く怨霊をすり抜けた。
「なっ…!!」
《さらばだ》
そう言い残して怨霊は消えた。
(このままじゃケルディオが…!!)
ビリジオンは先程ケルディオが駆け戻った道を走り出した。
暗く、焼け焦げた臭いの立ち込める黒い森をただひたすら走った。息も絶え絶えになりながら必死で彼の姿を探した。
…そして。
「!! ケルディオ!!!」
そこに倒れている彼を見つけた。急いで駆け寄り名前を呼ぶが、反応は無い。
ケルディオケルディオ!!!」
目立った傷は無かったが、何度呼んでも目を覚まさない。そこでビリジオンは恐ろしいことに気付いた。

ケルディオが、息をしていない。

「嘘…でしょう?…ねえ、ケルディオ!…ケルディオ!!!」
いくら揺すっても、声をかけても、やはりケルディオは起きなかった。気付くと彼女の頬を一筋の雫が流れていった。

 

……許さない…!!!

 

直後、ケルディオの顔が微かに歪んだ。それが笑みだと気付いた時には、ビリジオンの視界は暗黒に閉ざされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


「……ィオ、…ケルディオ!!」
はっとしてケルディオは起き上がる…とほぼ同時にひどい咳に襲われた。
「っ、ごほっ、げほっ!!」
ケルディオ、大丈夫か?何があった!?」
見上げると、コバルオンテラキオンの顔がそこにあった。どれほどの間気を失っていたのか、空もうっすら白んでいる。
「えっと…」
ケルディオはまだ混乱しながらも必死で思い出しながら、闇の中で起こった一部始終を少しずつ話していった。
「まず…ビリジオンに言われてコバルオン達を探しに行って…。そしたら急に目の前が真っ暗に…。すごく気分が悪くなって倒れたんだけど、その後…」
そして急に何か気付いたように立ち上がる。
「そうだ、ビリジオン!!僕暗闇の中でビリジオンの声を聞いたんだ!ビリジオンはどこ!!?」
その言葉にコバルオンテラキオンは顔を見合せて困惑する。
「それはこっちが聞きたい。ビリジオンは一緒ではないのか?」
ケルディオの中で底知れない不安が沸き上がる。
「早く見つけなきゃ…!!」
まだふらつきながらもケルディオは無我夢中で走り出した。
「な…おい、待て!!」
コバルオンテラキオンもつられて走り出す。
一行がしばらく行くと、赤い巨体が横たわっているのが見えた。
「これは…」
リザードン、だな」
テラキオンコバルオンが慎重に近寄る。
「…死んでる…」
尻尾の炎が消えているのをケルディオは確認した。
「さっき…いや、昨日か。ビリジオンと一緒に見つけた時はまだ生きてたんだ。と言ってもすでにボロボロで死にかけてたけど…。で、コバルオン達を呼びに行こうとしたらあんなことがあって…」
「こいつについては何か得られたか?」
「ううん、僕は見つけてすぐこの場を離れたから…。とにかく、ビリジオンはこの森の周辺にいるはずだ」
「だが…何でビリジオンはいなくなったんだ?放火犯でも追っかけていったのか?」
「わからない…けど」
ケルディオは再び歩き出す。
「何か嫌な予感がする」
コバルオン達も、ケルディオの後についていった。

 

 

 

 

 

数十分後――

 

 

森の外れの広場を通ったケルディオ達は、そこで目を疑うような光景に出くわした。
「…っ!!?」
「これは一体…!!?」
真紅に染まった地面。無数のポケモンの死体。普段ポケモン達の憩いの場となっていたであろう広場は、それは凄惨な様であった。
「昨晩の火災から逃れてきたポケモン達か…」
コバルオンが死体を見て呟く。ケルディオも憤りを隠せない様子だ。
「誰がこんなことを…!」
「どれも鋭利なもので切り裂かれたような傷だ…。恐らく鎌か剣のような刃物を持つ者の仕業だろう」
(剣…)
ケルディオも死体の様子を確認する。その後、間があってコバルオンが言った。
「とにかく今は犯人を探そう。かなり腕の立つ者のようだ…2人とも私の側を離れるな」
「うん!」
「ああ!」
3匹は力強く地を蹴り、駆けていった。

 

 

 

 

 

それからどれほどの時が経ったのだろうか。一行を先導して走っていたコバルオンが、不意に動きを止めた。
「どうした?」
「血の臭いがする…。あちらの方からだ」
コバルオンに続きケルディオテラキオンも方向を変えて走り出す。一行はすぐに現場にたどり着いた。
そこで待っていたのは、思いもよらない光景だった。
さっきの広場と同じように血染まった地面と、人間の死体。そしてその奥に立っていたのは――

 

 

 

「…ビリジオン……?」

 

 

 

「あらケルディオ…それに皆。遅かったわね」
妙に生優しい声で話しかけるビリジオン。その姿は所々に返り血を浴び、何か恐ろしいものに見えた。目つきも変わり、吸い込まれそうなほど深い闇に包まれていた。
「何これ…全部、ビリジオンが?」
「ええ。昨日森に火を放ったリザードンを影で操ってたのがこの人間…。このまま放っておけば新たな惨事を引き起こし兼ねなかったから、私が裁いたの」
「嘘だ!!!!」
ケルディオは額の角を振りかざし、ビリジオンに向けた。
ビリジオンはそんなことするはず無い!!!正体を現せ!!!」
「正体も何も、私がやったのよ。見ればわかるでしょう」
「…そのようだな」
今度はコバルオンが進み出た。
「だが貴様がやったのであってビリジオンがやったのではない。…貴様は何者だ。ビリジオンを返せ!」
そう言い放ち“聖なる剣”を構える。その様子を見たビリジオンは…いや、ビリジオンの姿をした者はため息をつき、言った。
《ふむ…全てお見通し、というわけか。やはりこの姿だと騙すには無理があるか…》
「森のポケモン達をやったのも貴様だな。何が目的だ」
《我は…世界を暗黒に染める怨霊、ただそれだけだ》
直後、双方が動いた。怨霊がコバルオンに襲いかかると、両者の剣がぶつかり凄まじい衝撃が走った。
「っ…!!」
威力は互角、だが鋼タイプを合わせ持つコバルオンはやや押され気味だった。
「う…あぁっ!!!」
ついにコバルオンの剣が弾かれ、その身にビリジオンの姿をした怨霊の聖なる剣が命中した。
「ぐ…っ!!」
コバルオン!!!」
「来るな!!」
コバルオンはよろよろと立ち上がるが、そこに怨霊が歩み寄る。
《さて…とどめだ》
怨霊がもう一撃を加えようとしたまさにその時、コバルオンの体が激しく光り出した。
《!!?》
「喰らえっ!!」
そのまま“メタルバースト”が放たれた…が、そんな状況でも怨霊はそれを回避した。
「くっ…やはりビリジオンの姿をしているだけある。かなりの反射神経だ…」
《ああ、やはりこの身は便利なものだ。苦労して乗っ取った甲斐があったな》
「乗っ取った……?」
ケルディオの言葉に怨霊は答える。
《そうだ。これは紛れも無きビリジオンの肉体。最初は苦労したが、汝を利用しビリジオンに憎悪の感情を植え付けてからは楽であった。ビリジオンは仮死状態にした汝を見て、我に殺されたものと思い込んだようだったからな。感謝しておるよ》
怨霊はそう言い放ち笑うと、怒りに震えるケルディオには目もくれずコバルオンに狙いを定めた。
「……い…」
《何だと?》
直後、ケルディオは怨霊に斬りかかった。
「許さない!!!」
ケルディオの“聖なる剣”は怨霊に命中した…が、怨霊はそれほどダメージを受けた様子は無く、涼しげな顔をしていた。
「っ!!?」
《そんなものか》
動揺するケルディオを、怨霊はリーフブレードで一蹴した。
「ぐあぁっ!!!」
ケルディオ!!!」
《「許さない」…か。この女もそんなことをぬかしていたな。愚かなものだ…。その憎しみこそが我が力となるのがわからんか》
「っ…!」
怨霊の言葉でケルディオは必死に考えを巡らせる。
(そうだ、落ち着け!ビリジオンだって怒りや憎しみに流されちゃ駄目だって言ってたじゃないか!…でも、そのビリジオンがこんなことになるなんて…)
沸き上がる思いに、ケルディオはきつく歯を噛み締めた。
(僕のせいで…!!)
「自分を責めるな、ケルディオ…」
すると、ケルディオの心を読んでいたかのようにコバルオンが言った。
「そんな余裕は、まだ無い。とにかく、今は…ビリジオンを助けるのが、最優先だ」
どうにか呼吸を整えながらコバルオンが一生懸命話しかけてきた。その様子にケルディオも自分を奮い立たせる。
「…うん!!」
そして怨霊に再び立ち向かっていった。
「はあぁぁっ!!!」
ケルディオは聖なる剣を繰り出す。怨霊も同じく聖なる剣で応戦した。

ガキイィン!!!

鋭い音が辺りに響く。その威力は互角で、両者共に衝撃で弾かれた。
「うあっ!!」
《む…》
そして体勢を立て直すと、今度はケルディオがハイドロポンプを放ち、怨霊がリーフブレードで相殺した。
(この小僧、先程より強くなっていないか…?)
気付くとあまりの水しぶきに周りが見えなくなり、ケルディオの姿が消えていた。
「こっちだ!!」
《! ぐあ…!!》
聖なる剣が怨霊に直撃する。かなりのダメージだったようで、どうにか地面を踏みしめ立っていた。
《くっ…い、いいのか?》
「!?」
《我を攻撃するということは、この女を攻撃するということだ。下手をすればこの女の肉体は滅びる…。汝等はそれで良いのか?》
「!!!」
突然突きつけられた事実にケルディオは固まってしまった。その隙を見逃さず、怨霊は攻撃を仕掛けてきた。
「っ!!」
「させん!!」
不意に放たれたコバルオンのメタルバーストが怨霊を吹き飛ばした。
「何をしている!動きを止めるな!」
「で、でも…」
《ふん、仲間の肉体だというのに容赦無いものだ…》
「っ…まだ立つか…!」
見ると傷だらけのビリジオンの体がそこに立っていた。
《面倒だ…汝には先に消えてもらおう》
直後、怨霊の放つ“ギガドレイン”がコバルオンにヒットした。
「がはっ…!!」
コバルオン!!!」
残り少なかった体力を削られ、コバルオンが倒れる。それに伴いビリジオンの体の傷も癒えていった。
「くそっ…よくも!!!」
そう言って飛びかかろうとする寸前、ケルディオの足は動かなくなった。
(っ…駄目だ、今攻撃したら――)
《どうした、来ないのか?ならばこちらから……うっ!!?》
何の前触れも無く、急に怨霊は苦しそうな様子を見せると同時に動きが止まった。
「!?」
《ぐ…まさかまだ……うあぁっ!!!》
何も状況がわからないまま、しばらく沈黙が続いた。
「……ケ、ケルディオ…」
「!!?  ビリジオン!!!?」
突如、正真正銘のビリジオンの声がその口から聞こえてきた。
「早く…私を、倒しなさい……」
「え…な、何言って…」
「こいつ…思ったより、すごい力を持ってて…このままじゃ、皆やられて…全てこいつの、思い通りに…、世界が、滅亡してしまう…」
「けどそしたらビリジオンが…」
「そんなこと言ってる場合!!?」
「っ!!」
ビリジオンは叱咤した後、再び静かに話しだした。
「私が、こんなことになって…あなたに辛い思いをさせてしまって…それは、申し訳無いと思ってる…。けど、世界と比べたら…私の命なんて、取るに足らないものよ…」
「……」
ビリジオンは寂しげに笑った。
「お願い…私は、どっちにしても、もう持たない…。世界を…守っ…て……」
やがてビリジオンの声は消え、その瞳に闇が戻った。
《ふ…しぶとい女だ。まだ自我を保っていられたとは…》
怨霊は深い吐息をつくと、リーフブレードを構えながらケルディオの方に近付いてきた。
ビリジオン…」
ケルディオは泣きそうになるのをこらえ、顔を上げた。
ビリジオンは…今、世界のためなら自分がどうなってもいいって言ったね。でも、そんなの僕は嫌だよ。もしそれも聖剣士になるのに必要なことだって言うのなら…僕は、聖剣士になれなくたっていい。仲間を犠牲にしてまで正義を全うしろって?そんなの間違ってるよ!」
ケルディオは地面を強く踏みしめる。
「僕は貴女を助けたい。ずっと仲間でいたい…一緒にいたいんだ!僕が…」
次の瞬間、ケルディオの身体が溢れんばかりの光に包まれる。

 

「救ってみせる!!!」

 

ドッと衝撃が辺りに走る。光の輝きが収まり、その場にいたコバルオンと怨霊は目を見開いた。
「あれは…!!?」
そこにいたのは紛れも無いケルディオだった。だが若干姿が違っていた。青く頑丈そうな角、鋭い眼光…。先程までのあどけなさは欠片も見当たらなかった。
「うおおぉぉぉ!!!」
ケルディオが駆け出し、剣を振りかざす。怨霊は寸でのところでかわし、自分もリーフブレードで迎え撃った。しかしそれもケルディオにかわされた。
《む…》
続けて怨霊はギガドレインを放つが、ケルディオは再びかわし、剣を怨霊に叩き込んだ。
《ぐはっ…!!!》
その場に崩れ落ちそうになる怨霊。どうにか踏み留まり、ケルディオに問う。
《くっ…その技、“聖なる剣”ではないな!?》
「……」
ケルディオ自身知らずに使っていたのか、何も答えようとはしなかった。
《…まあどうでもいい。この分だと勝ち目は無さそうだな…。逃げさせてもらうとしよう》
そう言うと怨霊はケルディオに背を向け走り出した。
「っ!!待てっ!!!」
ケルディオもすぐに追いかけ、怨霊の前に立ちふさがった。
《!!?》
そのまま放たれたハイドロポンプが怨霊に直撃した。
《ぐあぁっ!!!》
数メートル吹っ飛ばされた後も怨霊は立ち上がろうとしたが、その足にはほとんど力が入らなかった。
(やはり…姿が変わってからは明確にわかる。この小僧、格段に強くなっている!)
「さあ…」
ケルディオはその喉に自分の角を突きつける。
ビリジオンの身体を返せ!」
《ふ…それは出来ん。それに…我はまだ負けてなどおらぬ!》
「!!」
そう言うなり怨霊がギガドレインを放つ。今のケルディオでもよけきれないかと思われたが、不意にその身が真横へ吹っ飛んだ。
《何!!?》
「えっ…!!?」
地面に投げ出されたケルディオが痛みをこらえながらが隣に目をやると、そこに立っていたのは…
テラキオン!!?」
「すまん、大丈夫だったか!?」
「いや、おかげで助かったけど…」
「なら良かった。…よし!」
テラキオンケルディオの無事を確認すると、怨霊の方を向いた。その口には奇妙な石がくわえられている。
《!! それは――!!!》
「食らええぇっ!!!」
テラキオンはその石を力一杯怨霊に投げつける。直後石は怨霊に命中し、その身から悲鳴があがった。
「やったか…!?」
見ると黒い闇がビリジオンの身体から沸き上がり、石の方に吸い寄せられていった。次第に蒼い霊体を表したその身は、そのまま石と共に塊となって地に落ち、離れることは無かった。
(これがこいつの本体…!?)
ケルディオは固唾を飲んで事の成り行きを見守る。
《しまった…くっ、離れん!!》
「やっぱり効いたか…」
《や、やめろ!!放せ!!!》
「放せと言われて放すかよ。特に…大切な仲間に手を出した貴様のような悪霊には、永久にその戒めに囚われるのが相応しい罰だろう!!」
そう言い放ったテラキオンが攻撃の構えに入る。
「さあ…裁きを受けるが良い!!!」
テラキオンの“ストーンエッジ”が怨霊の身を切り刻んだ。断末魔が辺りに響くと怨霊は跡形も無く霧散し、石だけがその場に残された。
「終わっ…た……?」
周囲が静寂に包まれる。しばらくし、ケルディオははっとして立ち上がった。
ビリジオン!!!」
石の側に倒れたままのビリジオンケルディオは駆け寄る。
ビリジオン、大丈夫!?ねえ返事をして、ビリジオン!!!」
「う…」
やがて、呻き声と共にビリジオンの目がゆっくりと開いた。
「ケル…ディオ……?」
ビリジオン!!!」
ケルディオビリジオンに飛び付いた。
「!?ケル…」
「良かった…!本当に良かった…!!」
そう繰り返しながらビリジオンにすがるケルディオの目から、一粒の涙がこぼれ落ちた。
「…ごめんなさい…。辛かったよね…」
ビリジオンケルディオを抱き締める。やがて彼女の目には例の石が映った。
テラキオン、これは…」
「ああ、要石だ」
「要石?」
「ん、ケルディオは知らないのか?まあ無理も無いか。ミカルゲは最近になって目撃されるようになった新種だし…」
「ミカルゲ…って?」
首を傾げるケルディオテラキオンが説明を始める。
「ミカルゲは108の魂から成ると言われているゴースト・悪タイプのポケモンだ。だが人里に現れては悪さばかりするものだから、人間達はそいつの動きを封じるためにある石に特別な術をかけ、ミカルゲをその石につなぎとめた…それがこの要石だ。ビリジオンの体を乗っ取った奴も怨霊だって言うから、これが効くんじゃないかと思って人家を探して借りてきたんだ。実際、奴はミカルゲの姿をしてたしな」
「え…じゃあ僕達が戦ってた間テラキオンはいなくなってたの!!?」
「お前気付いてなかったのか!?」
「うん、必死すぎて…」
ケルディオの言葉にテラキオンは寂しげな顔をした。
「はあ、そうか…。そう言えば、お前のその姿どうしたんだ?」
「あ、これ…?ごめん、僕にもよくわからないや…」
「恐らく、ケルディオの…げほっ」
離れたところからコバルオンの声がする。
「あっ、大丈夫かコバルオン!?待ってろ、復活草も拝借して来たから!」
「どれだけ人間から借りたんだ…」
「あとこれ、ビリジオンの分な!」
呆れるケルディオテラキオンは復活草を渡すと、コバルオンにも同じものを食べさせた。苦味に耐えながらコバルオンが復活草を完食すると、たちまちのうちに体の傷が癒えた。一息つくと早速コバルオンは話し始めた。
「ありがとう、テラキオン。さて、話の続きだが…恐らくケルディオの『ビリジオンを守りたい』という強い思い、覚悟から成るものだろう。ケルディオが奴との戦いで放った剣もまた…」
「あ…」
ケルディオは怨霊に言われたことを思い出した。
「そう言えばあの剣、確かに聖なる剣よりもダメージが大きかった。何だか物理的ダメージだったような気がするんだけど…」
「えっ、ビリジオン覚えてるの!?」
「ええ。だって私の身体ですもの」
「…ごめん…」
「いいのよ、別に。むしろ私と戦うなんて相当覚悟のいることだったでしょう?それを思えば称賛に値するわ」
「そ、そう?…うーん、でも僕が使った感じだとあの剣、特殊技だったような…」
「何だよそれ。まるでサイコショックみたいだな」
話を聞いていたテラキオンが口を挿んだ。
「ふうん…じゃあその姿は“覚悟の姿”とでも呼ぶことにするか?あと剣の方は“神秘の剣”!どうだ?」
「え…」
「そうね、かっこいいじゃない」
「え、そ、そうかな…?」
ケルディオは思わず照れ笑いする。そんなやりとりを見ていたコバルオンが言った。
「それで…こいつの処遇だが」
その一言で他の3匹は要石に目をやった。
「…まだ微かに悪意が感じられる。そのまま人間に返すのは危険だろう。どこかこいつを封印出来る場所を探さなくては」
「ん…そうだな」
テラキオン、結局『借り』じゃなくて『盗み』になっちゃったね」
「!!!…す、すまない…」
「僕じゃなくて人間に言ってよ…」
コバルオンが要石を拾い上げると、テラキオンと共に歩き出した。それを見ていたケルディオの姿が元に戻り、その後傷の癒えたビリジオンの元へ駆け寄った。
「さ、行こう、ビリジオン!」
「……」
しかし、ビリジオンケルディオの言葉に応えず、ただうつ向くばかりだった。
「…ビリジオン?」
「ごめんなさい」
ただ一言、その口から洩れる。
「え…?」

「私、聖剣士を辞めるわ」

突然の言葉。しばらくその場は沈黙に包まれ、風になびく草木の乾いた音だけが響いていた。
「え…辞める…って……ねえ、冗談だよね?僕の聞き違いじゃ…」
「いいえ、冗談なんかじゃない。私は聖剣士を辞める。これは事実よ」
重ねられるビリジオンの言葉に、ケルディオの顔には悲壮が浮かぶ。
「な、何でだよ!!僕、またビリジオンと世界を救いたくて…一緒にいたくて助けたんだよ!?なのに何で…」
「見たでしょう?ここに来るまでの間、私が何をしたか」
「!!」
ケルディオは数メートル先に目をやった。そこにはまだ血だまりの中に転がった死体がある。
「操られていたとは言え、こんなことをしてしまった以上私には聖剣士を名乗る資格なんて無い。私だって、あなたとずっと一緒にいたいわ。だけど…もう、無理なのよ」
ケルディオは何も言い返せず、ただ黙ってビリジオンの別れの言葉を聞くしか無かった。
コバルオン
ビリジオンコバルオンの方を振り向く。
「今の戦い…ケルディオが私に勝ったと言っても良いわよね?」
「ああ。最後にテラキオンが手を出したが、ほぼそう言って大丈夫だろう」
「おい…」
テラキオンコバルオンに不服そうな眼差しを向ける。
「つまりケルディオは最後の試練を乗り越えた…。平和を脅かす悪も退治したわけだし、仲間を必死に守りながら戦った。これならもう立派な聖剣士よね」
「…でも…」
何か言いたげなケルディオを制しビリジオンは続けた。
ケルディオ…あなたは私と違い、純粋で気高い剣士になれる。私がいなくても大丈夫よ。だから…」
そして、最後に一言

 

「…さようなら」

 

その言葉だけを残し、ビリジオンは血の臭いを運んでいく風と共に去っていった。
「っ!!ビリジオン!!!」
ケルディオはそんなビリジオンの後を追うべく走り出す。
ビリジオン待って!!!」
しかし森の木々に遮られ、ビリジオンとの距離は無情にも開いていった。
「ビリ……」
やがてケルディオはその姿を見失い、その場に座り込んでしまった。
「う……うわああぁぁぁあ!!!」
大粒の涙がケルディオの頬を濡らし、落ちてゆく。コバルオンテラキオンが彼を迎えに来た後も涙は枯れ果てるまで流れ続け、日が暮れても尚ケルディオはその場から離れようとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


そして話は現代――1044年、ポケモン大虐殺の直後に戻る。


レルト国とルチール王国の国境であるリシア山脈の岩窟で、レイオンは今まさに旅立とうとするケイロンの背に向かって話しかけた。
「…本当に、聖剣士を辞めるのか」
「うん。もう決めたことだから」
つい先日までポケモン達を守るべく戦ってきたケイロン達であったが、その尽力も虚しくレルト国にいたほとんどのポケモン達は殺されてしまった。結局人間達を止められなかったこと、そして己の無力を呪いながらも、ケイロンはレイオンの言葉を思い出していた。
(誰しも完璧にはなれない。人は皆、無力なものだ。だが共に信頼し、支え合える仲間がいてこそ人は真の力を発揮する…。わかってるんだ、そんなこと)
ケイロンはそう心に浮かべながらも言う。
「僕達は、共に長く戦いすぎたのかもしれない。お互い頼ってばかりだったから、自分が想像以上に無力だったのに気付けなかった…」
ケイロンはレイオン達の方を振り返った。
「僕はもっと強くなりたい。1人でも世界を救えるくらいに。だから、これ以上2人とは一緒にいられない」
レイオンは表情一つ変えずにケイロンの目を見ていたが、しばらくの沈黙の後、ため息をつくと言った。
「…分かった…勝手にするがいい」
その言葉がケイロンには意外だった。レイオンのことだ、きっと止められると思ってたのに…
ケイロンはまだ若干後ろめたそうに2人を見ていたが、

「…ごめん」

そう呟くと岩窟の外に姿を消した。

「…良いのかよ」
足音も完全に去った後、ガレオンが口を開く。
「ああ。口ではあのようなことを言っていたが、恐らくいずれは戻って来るだろう……ビリジオンを連れて」
ガレオンは最後の言葉に驚きの表情を浮かべる。
「それって…お前、全部分かった上で…!?」
「ガレオン」
レイオンの瞳は、微かに寂しそうに影っていた。
「我々も少し休もう。これまで十分過ぎるほど戦ってきたし、何より…剣士はもう、時代遅れなのかも知れん…」
ガレオンも悲しげな顔でレイオンの言葉を聞いていた。やがて2人はどこへともなく散っていくこととなったが、それをケイロンが知る由も無い。

ケイロンはリシア山脈を降りきった後一瞬後ろを振り返り、再び視線を前に戻すとその先を見据え、駆け出した。

「待っててビリジオン…今迎えに行くから」